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少欲知足
お参りも無事終わりました。今暫くお時間を頂戴します。どうか、ひざをくずして楽になさって下さい。私も大分ひざが痛くなるようになりました。他人様と会う時も「最近ひざの調子はどうだい」が挨拶代わりで、いっそのこと「ひざ痛同好会」でも作ろうかという話しになっています(一同笑)。
今日は、お会式…日蓮大聖人730回目の御命日のお参り…です。すでに御承知とは思いますが、50歳で佐渡へ渡られた日蓮大聖人。2年とちょっとの後、鎌倉へと戻られます。そして、あまり間をおかず、身延へと入られました。湿気が多く、夏暑く冬寒いところです。9年お住まいになられますが、体をこわされ、ひたちの湯へと静養に向かわれます。御歳60歳のことです。9月に身延を出発し、途中、信者さんである池上宗仲公のお屋敷…今の池上大坊本行寺…でお休みになられますが、体調がよろしくなく、それ以上進めません。6名の弟子を定め、後を託されました。そして、10月13日、その場で御入滅されたのです。
「お墓は身延に建てて欲しい」という日蓮大聖人の御遺言に従い、身延に埋葬されました。この御遺言は「私(日蓮大聖人)の魂はずーっと身延に住みます」と続きます。私たちが身延山にお参りすることは、そこにいらっしゃる日蓮大聖人の魂に触れるという意味を持つのです。
さて、この間6月の開山会で御法話申し上げましたが、今回もその続き、原発事故のことです。一回では言い足りないので、もう一度申し上げます。
残念なことに、「騒ぎすぎだ」という声を耳にしました。しかし、原発だけは、どんなに騒いでも「騒ぎすぎ」と言うことはありません。月日が経ち、関心が薄れつつありますが、それではいけません。「新潟県内はあまり関係ない」という風潮もあるようですが、そんなことはありません。この3日付の毎日新聞に、県内の高校での測定結果が掲載されていました。堀内、小出、八海、塩沢、松代などで、比較的高い数値が検出されております(11月2日測定)。現状の程度では浴びても即死しないので、その恐怖を忘れがちですが、それではいけません。
あのチェルノブイリ。事故から5年たった'91年に、独立を果たし、ウクライナという国の一地域となります。その時の人口が約5,200万人。そして昨年の人口が約4,500万人。この約20年で700万人も減っております。平均寿命も75歳前後から55歳へと下がりました。色々な影響があるでしょうが、放射能によるものが大きいと考えられます。また、今でも、その半径30km圏内は立ち入り禁止です。同じく100mから300km圏内の人たちについて、事故から10年後、消化器・循環器系の病気について調査をしました。いずれも平均以上に罹っている人が多い、という結果が出ております。これが実態であります。この影響を真摯に受け止めて、対応しなければなりません。
一番恐ろしいのは、この影響が小さな子ども達に大きく出る、ということです。同じ10年でも、私のような年の者の10年と、園児の10年とでは、格段に影響が異なります。子ども達は、こういうことはよくわからないわけですから、私たち大人がしっかりと見守ってあげなければなりません。
事故後、「(お寺に隣接する)保育園は大丈夫か」という質問を頂きましたので、少々無理をして測定器を求めました。実際に測ってみましたが、事故以前と同じ値です。今日も、こうして小さいお子さんがお参りに来ておりますが、このようなお子さんたちを中心に十分お気をつけ頂きたい。…私はもうトシだから大丈夫ですが(一同笑)。
食品の中では、とりわけ地面の近いところにはえるもの…こけ(きのこ類)、山菜など…へ蓄積されます。ここで気をつけなければならないのは、「○○産だから危険」とは一概に言えないということです。原発の近くで値の低いものがあれば、遠くで値の高いものもあります。
そんな中、脚光を浴びているのが、京都大学の先生、小出裕章(こいで ひろあき)さんです。学生時代から原子力について勉強され、結果、その危険性を訴え続けております。当然、原子力を推進する立場の方からは疎ましく思われ、研究費も十分にもらえません。立場も、いまだ、助教です。事故後、講演依頼が引きも切らないそうです。その方の著書に、次のようなことが書かれていました。
「今回の原発事故は、天災ではなく、人災であり犯罪です。危険性の指摘には耳も貸さず、安全神話にしがみつき続けてきた東電や政府の無作為の犯罪と言えます。収束までにどのくらいの時間がかかるか、見当もつきません。相当かかることでしょう。長年住み続けた家に帰りたいと思っても、帰れないかも知れません。原発難民とならないことを、ただ祈るだけです。一度事故が起きれば、こんなにも苦しめられるのが原発なのです。」(大意)
遠く離れていますと当事者でもない限り意識から薄れてしまいがちです。それではいけません。
今回の事故は、「今良ければそれでよい」とする人が増えてしまった結果でないでしょうか。「子孫のために何ができるか」一人一人が考えなければなりません。今こそ、きすぎた欲望を捨て、法華経にも書かれております「少欲知足」を実践するときです。
子孫に責任をもてる社会にしなければなりません。お題目修行をするみなさまは、もう御理解されていらっしゃるでしょうから、ぜひとも、まわりにも弘めて頂きたいのです。
今、私たちがそれを実践することこそが、日蓮大聖人への恩に報いることになるのです。
このことをみなさまにお願い申し上げまして、今日の法話を閉じさせて頂きます。
御聴聞の行、まことにありがとうございました。
平成23(2011)年お会式法話より
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